一老人の感想。伊勢物語を読むの著者宇都木敏郎が綴る徒然話です。世の中は驚きに満ち、日常の全てに興味がそそられます。人生を勉強と追求に掛け、入ってくる知識よりも消えて行く記憶が勝っても尚、その意欲は変わらない。

一老人の感想

一老人の感想

「でたよ」「えっ、出たの」……尾籠(びろう)な話でおそれいる。

実は私は10日間お通じがなく、 5月10日に入院してから、腸閉塞の診断で21日には退院したものの、その後ずっと音沙汰がなく、またもとの状態に戻ってしまったかと悲観していた時のことなのである。私は以前から姉弟すべてが便秘で苦しんでいて、10日くらいの便秘は普通であり、浣腸してようやく答えを出すということが多かった。再入院しようかと決心していた今度の場合は、体力を消耗していたのでひどく身体にこたえた。また入院と覚悟していた時だけに、密かな喜びの心は他の人には信じられなかったろう。しかし妻は「よかった、よかった」と手をうって喜んでくれた。全く夫婦以外には理解できない状態であった。

病院はすべての医療機械が完備していて、鼻から管を通して腸に通した。それをレントゲンを見ながら様子を伺うのである。腸はどうなっているのか私には分からないが、点滴を続けながら常にレントゲンで調べていた。甲高い声の看護師さんには困ったが、もったいないと思う毎日のベットの状態であった。腸閉塞の原因は腸のねじれがもとであって、過去の腸の手術によるのではないかと言われ、私の場合も前に胃を切ったり、腎臓結石で手術したりしたので、その影響によるのだろうと思うが、よく分からない。

点滴の時は塩気のないお粥の毎日が続いて食欲がなく、寝たきりであったから、普通でも少ない私の体力は確実に衰えていった。やせてよろよろした。入院も退院もタクシーを使った。まったく、完備された医療や交通、その他の機関のおかげで私は生きている。昔だったら私はもっと苦しみ、死を覚悟していたろう。86歳であるから、もういつ死んでも仕方ないと思うものの、死ぬのは嫌である。いつ死んでもいいと常に覚悟のできている昔の武士と比べると、私の人生態度は劣っている。体力がもっとなくなったらこの気持も違ってくるかと思うが、今はもっと生きていたい。生きてこの世の在り方を見定めてみたい、そして多くの読書を果たしていきたいと願う。戦争で貴重な青春を無駄に失った時をまだ取り戻してない気持でいる。

ハムレットは「生きるべきか、死ぬべきか」という言葉の中に、生きても仕方のない時には死んでしまったらいいと思ったようだ。ハムレットは常に生きるか死ぬかを考えていた。今の私はまったく「生きる」覚悟のできていない、情けない状態であると思っている。

2011/5/29